法人格を取得した宗教団体で利益や収益を目的としていない非営利団体を「宗教法人」といいます。公益法人の一種で日本では主に神社・教会・寺院などに属する教派等の団体がそれに当たります。法人の仕組みで一般事業と大きく変わるのが「税率」です。宗教法人は境内、墓地など敷地内に発生する「固定資産税」やお布施や寄付などによる収入には税金がかかりません。このような特徴を踏まえ、宗教法人のM&Aを解説していきたいと思います。
宗教法人の市場環境と現状
昭和26年に制定された宗教法人法により宗教団体に法人格が与えられ、不動産等の所有における権利を与えられた。これが宗教法人の誕生である。法人格を取得しなくとも宗教団体として宗教活動を行うことは可能でありますが、宗教団体の総数のうち約8割が宗教法人として登録されています。
宗教法人の市場規模
宗教法人の市場規模は全体で約7兆円とされていて、これはドラックストア市場と同等の規模となります。登録されている宗教団体数は225,000となりますが、その中で宗教法人として登録されている団体は180,000と全体の約8割とされています。宗教法人の主な事業は「宗教本来の事業」と「収益事業」に分けられており事業によって課税対象が変わることも大きな特徴の一つです。「坊主丸儲け」という言葉にあるように「お寺は儲かる」イメージが強い宗教法人ですが、現実「宗教本来の事業」だけでは生計を立てていくことは困難で「収益事業」によって兼業をしている宗教法人がほとんどです。
宗教法人の市場動向
宗教法人の市場動向を見る上で重要なのは「一般とは異なる収益形態」にあります。主な収益は「お寺運営などの公益事業」と「収益事業」があり、それぞれに特徴がありますが、どちらかに偏ることはせず、兼業をして生計を立てています。動向を含めそれぞれの特徴を見てきましょう。
お寺運営(公益事業)の収益/非課税対象
お寺の運営は主に「境内での参拝業務」「葬儀を中心とした法事での読経」や「仏の教えを伝える法話などの講演」「墓地の維持管理」「幼稚園の運営」などがあります。このような公益事業は宗教活動の一環とされ非課税の対象となります。公益としている故に営利活動ではないのでお寺の維持費などの経費を差し引くと多くの収益は望めないのが現状です。昔からお寺の中にある幼稚園が多いのもこれで納得ですよね。
収益事業/課税対象
宗教法人の主な収益事業(営利事業)は主に34の事業に限られています。この34の事業は株式会社にするよりも税率が35%程度軽減されますので、法人税対策として宗教法人を買収するケースは少なくありません。「販売業」から「不動産業」「製造業」あでもが範囲になりますが、多くの宗教法人が実施している主な収益事業としては「お守りやおみくじに関連するお土産販売」や「境内以外での不動産貸付」「お寺で開催される茶道や生け花などの教授」「月極駐車場の経営」「結婚式場の経営」などが当たります。どれも営利目的の事業となるため課税対象となります。
宗教法人のこれから
上記でもあるように宗教法人は「公益事業」と「収益事業」の2本柱で市場が成り立っているのが現状ですが、近年様々な簡略化が進み「法事の減少」「お葬式の簡素化」「納骨堂の台頭による墓地の利用減少」など「公益事業」がより厳しい状況に立たされています。
しかしその一方で境内のあり方が見直されお寺で「アート展」を開催したり、デジタル化が発展し「電子マネーでのお賽銭」や「WEBでお祓いができるサイト」など宗教法人にも多様化の波が押し寄せています。
宗教法人 M&Aの特徴と目的
宗教法人のM&Aは、一般企業とは違う様々なメリットや特徴があります。M&A市場は活発で現在でも100以上の寺院が売りに出されていおり、その半数以上がリアルタイムに取引されています。活発なM&Aの背景にあるのはどんな要因でしょうか?3つの要因を解説します。
税金のメリット
宗教法人M&Aの一番のメリットはやはり「税金のメリット」です。宗教活動(お布施や寄付など)で得られた収入は全て非課税になりますし、そのお金を預けた銀行利息や、株式運用された利子や配当ももちろん非課税になります。お布施や寄付で得たお金は年間8000万円までなら帳簿をつける必要も税務申告の必要がありません。8000万円以上でも申告の必要がありますが基本無税です。そしてさらにそのお金の相続税に関しても現金に関しては非課税で相続が可能です。
そんな税金の優遇は経営者にとってメリットが大きく、それも人気の背景につながっています。
新規設立が困難
宗教法人を1から始めようとすると、それはかなりの困難な道のりになると言われています。いろいろな資格認可制度があり僧侶の資格を持たないと新代表になれません。宗教法人数自体も現在は飽和状況にあり各地域が必要ないと判断すると新規設立は難しくなります。
宗教法人の売買は「禅譲」と言われ、売主からも禅譲先の審査は厳しく、外国籍や反社会的勢力、節税目的や転売目的など厳しく調査され簡単には買収ができません。一方で買収が難しい分、売りに出されると高額な売却益が発生することも多いので、条件や状況によってM&Aと言う選択肢は有効な手段として活用できます。
宗教法人 M&Aのメリット
近年、宗教法人が抱える大きな問題は「後継者問題」といえます。宗教法人の継承は一般お会社とは異なることが多く、事業を継いだからといって社長になるわけではありません。お寺には通常「住職」や「門主」などと呼ばれる代表がおりますが、宗教法人は「代表役員」と言う役職が最終決定権を担います。実際には「住職」が「代表役員」を兼任しているケースが多く、よって後継者がいない場合はそのまま廃寺として廃業してしまうケースも多くあります。税制優遇やその他にも素晴らしいポテンシャルを秘めている宗教法人M&Aはとても人気がある業種となる為、双方のメリットを理解し活用することで適材適所で良いM&A取引が可能です。では具体的にどのようなメリットがあるかをご説明していきましょう。
売り手のメリット
M&Aは後継者問題を始めとした様々な問題を解決に導きます。実際にM&Aの実施で売り手にとってどんなメリットがあるのかを見ていきましょう。
後継者問題の解消
現在全国のお寺の数は約8万ほど存在しています。その中で住職不在の「空き寺」は2万ほどあり、全体の約25%が廃寺となっている現状があります。これは後継者不足問題から発生しており、近年その後継者不足問題が加速しつつあります。大きな原因としてはビジネスとしての継承だけではなく「住職」になるという重たいプレッシャーから、親族を後継者にすることも難しく、後継者探しにかなりの時間をかける住職さんも少なくありません。
しかしそんな問題を解決出来る糸口がM&Aにはあります。禅譲と言う形で事業継承が可能になれば後継者問題はすぐに解決され、廃業を免れるだけではなくお寺の新しい活用方法を見出すことが可能になるため、大きなメリットを受けることが可能です。
多額の売却益が得られる
新規での設立・認可のハードルが高い宗教法人業界は、買い手需要が非常に高いことが特徴で、買い手がつくと1000万円から数億円まで条件や立地によって多額な売却益が出ることが多いです。得た売却益を活用し新しい事業を始めたり、老後の蓄えとしては十分なほどの額が手に入るのでこれからの人生の選択肢が広がります。
買い手のメリット
売り手市場とされる宗教法人M&Aは、買い手にとって様々なメリットがあります。ビジネス上のメリットも含めどのようなメリットがありのかを見ていきましょう。
税金のメリット
ビジネス上の一番のメリットはやはり「税制優遇」でしょう。寄付やお布施が非課税になることはもちろん、相続税の優遇や、収益活動による税制優遇も一般企業と比べると大きなメリットがあります。宗教法人を持つと節税対策にも大きな効果が得られるため、高額で取引されることも多く、人気はこれからも上がっていくと予想されています。
狭き門だからこそのメリット
新規で宗教法人を設立したい場合、簡単には開業できません。新規設立に関しては認可の壁が大きな課題となっており開業するにはかなりの狭き門となります。
一方でM&Aによる買収は売り手との条件が合えば、時間や多額の費用がかかることなく宗教法人を取得することができるため、買収取引は日々積極的に行われています。売りに出るとすぐに問い合わせがくるような状況ですので、売り手側も良い条件で取引できる確率が上がり双方にとて良い取引ができるケースが多いです。
宗教法人 様々なM&A事例
東京都内の宗教法人の場合
東京都にある宗教法人で「後継者募集案件」でのM&Aとなっていました。運営費を除いても十分な収入があり、お弟子さん党の引き継ぎもあったため「8.4億円」と言う高額な取引額にて取引が行われました。
東海地方の宗教法人の場合
こちらの宗教法人も上記同様、高齢化のための「後継者募集案件」でのM&Aでした。境内地や事務所も譲渡価格に含まれ、「1億円」と言う取引額にて取引が行われました。