国際的な日本食・日本酒ブームの中で日本酒業界は好調だと考えられていますが、実は零細酒造会社の経営は楽ではありません。コロナ禍による販売の大幅減少と、日本人の酒離れによって、販路を持たない酒造会社は苦境に立たされています。しかし、国際的に見えて成長産業である日本酒酒造会社を買収したいと考える会社も多数存在するのも事実です。日本酒酒造会社のM&Aの現状と業界動向について詳しく解説していきます。
酒蔵・日本酒製造の今後の見通し
酒蔵・日本酒製造業界の今後の見通しは、国内需要は減少しているものの国際的な需要は大きくなっていきます。しかし、販路がワールドワイドに拡大する分「売る力」がない会社は競争に敗れてしまう可能性が高くなり、酒蔵・日本酒製造業界は、以前のように「酒を造っていれば一定の売り上げが確保できる」という時代ではなくなるでしょう。酒蔵・日本酒製造業界の今後の見通しについて詳しく解説していきます。
国際的な日本食ブームによって需要は増加傾向
国税庁の「酒のしおり」によると、日本酒の海外輸出額は2009年の72億円から2018年の222億円へと10年間で約3倍に増えています。国内での需要の低下によって日本酒全体の売上は減少しているものの、海外に目を向けると売上は爆発的に伸びているため、今後日本酒は「海外に向けて販売する輸出産業」という意味合いが強くなっていくでしょう。
競争は激しくなる
海外需要が伸びていく一方で、酒造会社同士の競争は激しくなります。近年酒造会社の廃業が相次いでおり、国内の酒造会社は2000年の1977社から2016年には1405社へと激減しています。(国税庁:清酒製造業の概況)
酒造会社が集約化されていく中、顧客や販路を確保することができない酒造会社は淘汰され、酒造会社の競争はますます激しくなっていくでしょう。地方から居酒屋が姿を消していく中、「地方の小さな酒造会社でも地元の居酒屋に置いてもらえるから一定程度の売り上げは確保できる」というような時代ではありません。
販路の確保とブランディングが勝敗を分ける
今後、酒造会社は国内全体や海外に対しても販路を拡大していかなければなりません。大手居酒屋、海外の日本食料理店、インターネット販売等、酒造会社自ら販路を確保することができないと生き残っていくことは難しくなります。そのためには単純に旨い酒を作るだけではなく、ブランディングをすることも重要です。これからは酒造会社にも「マーケティング能力」が求められるでしょう。
規模が小さいと経営は苦しくなる
海外に日本酒を販売していくのであれば、ある程度のロットで輸出しなければ元を取ることはできません。そのため、スケールメリットも重要になります。多くの日本酒を造り、多くの数量を輸出することができる規模がないと、よほどブランド力のある酒造会社でない限りは経営は苦しくなるでしょう。
売り手企業にとって酒蔵・日本酒製造を売却するメリット
このように、日本酒業界は今後ますます競争が激しくなります。単体で生き残ることが難しい場合にはM&Aによって生き残る方法もありますが、日本酒会社にとってM&Aを利用するメリットとして次の3点をあげることができます。
- 自社のお酒をより多くの人に飲んでもらうことができる
- 国際的な競争力が身に付く
- 従業員の雇用を維持できる
売り手の酒造会社にとって会社を売却するメリットを解説していきます。
自社のお酒をより多くの人に飲んでもらうことができる
流通力のある企業へ会社を売却することによって、国内はもちろん世界中の人に自社の酒を飲んでもらうことができます。これまでは地元の居酒屋にしか置いていなかった酒が海外の日本食レストランに置いてもらうことができるかもしれません。酒造会社として多くの人にお酒を飲んでもらえるようになることは間違いなく大きなメリットです。
国際的な競争力が身に付く
国際的な販路を持っている会社へ売却することによって、他の酒造会社よりも競争力が付くことになります。今後は酒造会社同士の競争が激しくなることが予想されるので、早い段階で国際的な販路や国際的なブランド力を確保して、競争力を身につけておく必要があるでしょう。
従業員の雇用を維持できる
資本力のある会社へ自社を売却することによって会社の雇用を維持することができます。造り酒屋の杜氏などは買い手企業にとっても大きな財産ですので、M&A後も継続雇用される可能性は非常に高く、場合によっては待遇がアップする可能性もあります。M&Aによって従業員の雇用と培った技術を継続することができます。
酒蔵業界が抱える課題や対策
酒造業界はM&Aを検討する経営者が増えています。それは、酒造業界全体で次の2つの問題点があるためです。
- 後継者不足
- 酒の消費量の減少
酒造業界が抱える問題について解説していきます。
後継者不足
酒造業界は3代・4代前から続いてきた歴史がある会社が数多く存在します。中には「江戸時代から続いてきた」という会社もあるほど歴史ある会社が多いですが、今は深刻な後継者不足となっています。
酒造業界の先行きが不透明ということに加えて、ライフスタイルの多様化によって「実家の家業に縛られる人生を歩みたくない」という若者が増えていることも後継者不足の原因の1つです。そのため、ある程度の売り上げは確保されているのに酒蔵を閉じてしまう黒字廃業も増加しています。後継者不足の問題を解決するためにもM&Aが注目されています。
酒の消費量の減少
お酒の消費量自体も減少しています。原因は若者の酒離れと、洋酒へのシフトが進んでいることが原因として考えられています。実際に日本酒の出荷量は1998年に113万klでしたが2015年には55万klまで、実に半分以下まで減少しています。(日本酒造組合中央会)また、2020年からはコロナ禍による大幅な外食産業や居酒屋の売上減少によって日本酒の国内売り上げは大激減しています。国内市場が大きく減少する中で、今後は大幅に増加している輸出を増やすことで販売規模を再度拡大していく流れとなっていますが、海外へ販売するためには販路やノウハウの構築が不可欠です。国内への販売から海外への販売へシフトしていくためには、どうしても中小零細の小さな酒造会社では不可能です。この問題を解決するためにも海外に販路を持った大手企業とのM&Aが有効な方法となるのです。
酒蔵・日本酒製造の売却を希望するなら専門家へ相談しよう!
国内市場が縮小し、海外市場は拡大していくという特殊な事情が顕著になっている酒造業界において、零細酒造会社が単体で生き残っていくことは簡単ではありません。市場や販路確保のためにはM&Aを活用し、従業員の雇用や自社の酒ブランドを守っていく方法も検討すべきでしょう。酒造会社には独自の技術やブランドがあるので買収を希望する会社は多数あります。酒造会社のM&Aを検討しているのであれば、まずは専門家へ相談することから始めましょう。