2020年の新型コロナウィルス感染拡大に伴い、観光業界は大きな打撃を受け、旅館業界においても倒産や売却等の対応を余儀なくされています。今回は、コロナ禍前後の外部環境を踏まえ、自社の魅力をいかに買い手に伝えるかについて解説致します。
業界トレンド(旅館業の事業譲渡・M&A成功の秘訣とは?)
旅館業界の概要(収益安定化のポイントは?)
旅館業は、観光業界の中でも、和式の施設を設けて、営業する宿泊サービスのことを指すと、厚生労働省の旅館業法概要に定義されています。旧街道を中心に観光地として残り、その周辺または温泉地等を中心に旅館が集まっているケースが多く見られます。旅館のメイン収入は、顧客からの宿泊費であり、平均すると全体構成比の70%近くを占めます。残りの30%は、料飲やその他のサービス提供からの収入となります。令和2年4月の観光庁の宿泊旅行統計調査によると、リゾート、ビジネス、シティなどホテルの稼働率が50%超であるのに対し、旅館は34.5%と低い稼働率となっています。
コスト面においては、固定費が大半を占めており、従業員への給与や設備の減価償却費が内訳として上位に挙がります。固定費割合が高いことから、稼働率により収益性が変動しやすく、ダイナミックプライシングによる需要と供給を反映させた値決め等を行うことで、収益性の安定を図っています。
市場規模(ポストコロナに生き残る旅館の条件とは?)
2015年以降は、国内旅行回数・宿泊数は堅調に推移していました。またインバウンド需要の追い風もあり、市場の規模は拡大を続けていました。施設数ではホテルは8000軒から1万件へと20%増加しているのに対し旅館は7万件から4万件へとお40%も減少しています。
2020年の新型コロナウィルス感染拡大に伴う、渡航制限や緊急事態宣言を受け、市場環境は大きく悪化しました。2020年市場成長率は、平均95%減となりました。こうした状況を受け、政府主導による『GOTOキャンペーン』を実施し、1人1泊あたり最大で7,000円のキャッシュバックや地域共有クーポン券の配布などを行い、コロナによる打撃の大きい観光・飲食業界への救済措置が取られました。しかし、感染状況の悪化からキャンペーン中止となり、業界としてはいまだ回復の見込みは立っていません。
業界動向(迫られるビジネスモデルの転換)
前述した通り、新型コロナウィルス感染拡大による影響を受ける旅館業界であるが、海外渡航の制限が長期化することが予測されるため、まずは国内観光による回復への期待が膨らんでいます。コロナ禍における需要の変化として、『3密回避』への需要が高まっており、従来の設備・サービス体制では対応できないケースが多く、ビジネスモデルの変革が求められています。例えば、大規模施設で大人数を収容できるタイプの施設では、3密を生み出しやすくなり、時間帯で区切ったサービス提供へのシフトなどが挙げられます。また類似するホテル業界と異なり、デイユース等のサービス展開がしづらい点もあり、WITHコロナにおける今後のビジネスモデル変革に向け、いまだ模索が続いていると言えます。
買い手が魅力に感じるポイント(旅館業を高値売却するM&A3つのポイント)
周辺スポットの市場性の洗い出し(秘めたる“立地”の強みの再確認)
旅館業界における外部の集客要素として、周辺スポット及び観光スポットの市場性があります。これまでも自社がどのような立地に属しているのか、ターゲット・競合他社の状況等を見極め、戦略を練る必要がありました。従って、買い手側から見ても売り手が属しているエリアは非常に重要なポイントとなります。ここで押さえるべきは、顕在化している市場性ではなく、潜在化している市場性となります。具体的な事例を挙げると、九州のとある旅館では、コロナ禍においても売上高が前年対比約110%で推移し、営業利益率も10%出ています。この好業績を実現しているのは、ビジネスマンが宿泊できる宿が周辺になく、ビジネスマンに特化したプランを提供し始めたことです。ネット環境整備や宿泊費に食事が含まれる等、ビジネスマンにとってうれしいサービスを展開しています。この事例でお伝えしたかったのは、いかに自社が属する市場・エリアの潜在的な需要を把握できるかが重要であり、それを買い手にPRすることが可能です。今一度、周辺の市場性すなわち隠れた自社の立地の“強み”について洗い出しを行てみてはいかがでしょうか。
自社のブランド力・コンセプトの明確化~差別化の要因は何か?
旅行者ニーズが多様化する中で、旅館のコンセプト・ブランド確立が求められています。
いかにターゲットを選定するか、自社のなりたいビジョンを確立するか、ブランドとなる要素をキュレーション(再構築)し、他社と差別化となるブランディング戦略が必要です。同エリア内の同業種の買い手であれば、単なる設備拡充となるケースが多い為、売り手のブランド力を活用することは少ないが、他エリアの同業種または異業種の買い手の場合は、売り手のブランド力・コンセプトを活用することを目的としているケースが多いです。従って、自社のブランド力・コンセプトを明確にし、同エリア内との差別化ポイントについても整理する必要があります。
旅館設備(求められる「三蜜回避」対応策)
旅館業における最大の強みとなるのが、やはり旅館設備です。これまでは、ターゲットに合わせたコンセプトを設定し、設備に反映させることが重要でしたが、新型コロナ感染拡大後において、新たなポイントが加わりました。それは、前述した『3密回避』への対応が可能かどうかです。顧客の旅館選びにおいても、これまでと大きな変化がありました。例えばコロナ禍においては、『部屋食』へのニーズが高まりました。コロナ前までは、『宿泊部屋に入ってほしくない』・『コストパフォーマンスが悪い』等の理由で、部屋食へのニーズが低迷していました。コロナ禍では、他の宿泊客との接触をさけるため、部屋食へのニーズが高まっています。また温泉においても露天風呂付き客室へのこだわりが強くなっています。例に挙げた内容は、分かりやすいものばかりですが、旅館施設において、3密回避・他宿泊客との接触回避が叶うかどうかは、今後の旅館経営において、非常に重要なポイントとなり、買い手にとっても魅力の一つとなります。
旅館業界におけるM&A成功のポイント
旅館業のM&Aスキームで事業譲渡が活用される理由
旅館業界において、最も活用されるM&Aスキームとして、事業譲渡が挙げられます。
売り手が行っている事業を譲渡する方式であり、会社の数が増えるわけではないので、買い手にとって経営効率悪化を引き起こさず、スムーズなM&Aが実現できます。
このスキームが選択される要因として、譲受する経営資源を決めて、取引を行えることが挙げられます。前述した買い手にとっての魅力的なポイントなどを含めて、譲受側は必要な資源のみを選定し事業譲渡を受けることで、株式譲渡と比べるとリスク低減を図れます。業界の概要でも説明しましたが、業界のビジネスモデル上、固定費が圧迫しやすく、経営の仕方によっては、無駄が発生しやすく、M&Aによって、その負債ともいえるマイナス要素を引き継ぐことは買い手にとって大きなリスクと言えます。
従って、売り手側は、自社の強み・弱みを把握した上で、先方が提示する条件に備える必要があります。双方が満足のいく取引となるよう、前述した内容も踏まえて、自社の経営資源を整理することをお勧めいたします。
まとめ
旅館業界は、新型コロナウィルス感染拡大前と後では、大きく市場環境が変化しました。また今後の回復の見通しも立っておらず、元々、財務体質の悪い企業については、大きな決断を迫られる可能性が十分にあります。また需要動向にも変化があり、今後はWITHコロナを加味した経営及びサービス体制確保が求められます。
改めて自社の状況を見つめ直し、新たな時代においての自社の在り方について、考えてみてはいかがでしょうか。
このように、コロナ禍を受けて旅館業界も激しい変化や業界再編の波に飲み込まれています。
特に中小企業のM&Aには大手と異なる知識やノウハウが必要となります。
最新の業界情報やM&Aに関する知識を持った専門家に相談することが安心・安全な売却を行うための第一歩となります。実績豊富な一般社団法人日本M&Aファースト推進機構では無料の相談窓口があります。お気軽にお問い合わせください。