近年、マッサージ業界の市場規模は拡大し続けています。その背景には、利用者の美容・健康への意識の高まりやストレス社会などが挙げられます。2016年時点のマッサージ業界における店舗数は13万6460ヶ所と、実に全国のコンビニ店舗数の約2倍となりました。今回は、競争が激化するマッサージ業界で成功するコツや、M&Aの動向について解説します。
マッサージ業界に含まれる業態5つ
ひと口にマッサージ業界と言っても、含まれる業態は多彩です。ここでは、主にマッサージの施術を行う業態5つについて解説します。
鍼灸院
鍼灸院での治療は主に、鍼灸とマッサージの2種類です。鍼灸は鍼師や灸師が、マッサージはあん摩マッサージ指圧師が行います。いずれの施術にも国家資格が必要で、資格が無ければ施術できません。鍼灸は鍼や灸を使い、神経を刺激することで血行を促進し、痛みや疲労物質を排出します。一方あん摩マッサージは、手や指による機械的刺激により、血流循環を改善し新陳代謝を促進させます。ストレスを解消するリラクゼーション効果もあります。
整体院・整骨院・接骨院
整体院では、骨盤や背骨を整え、骨のズレを矯正することで筋肉のコリや疲労をほぐし、体全体のバランスを整えます。別名「ほねつぎ」とも呼ばれる整骨院では、打撲・脱臼などを治療します。その知識と手技は江戸時代から伝わると言われており、整骨の施術を行うには「柔道整復師」の国家資格が必要です。ちなみに、整骨院と接骨院は名称が異なるだけで、業務内容は同じです。例えるなら、「美容室」と「美容院」の違いのようなものと言えます。
クイックマッサージ
「てもみん」で有名なクイックマッサージは、近年人気の業態です。10~20分程度のメニューが揃い、短時間でコリをほぐすことができるため仕事帰りや出勤前に利用する方も多いです。価格帯は10分で1,000円程度と安く、服を着たまま受けられる手軽さも人気の理由です。駅前やオフィス街などに多く立地しており、多忙な現代人に「癒し」と「リラックス」を提供しています。
訪問マッサージ
訪問マッサージとは、前述したあん摩マッサージ指圧師が患者の自宅等に訪問し、行う施術を指します。治療院と同様、あん摩と指圧とマッサージを組み合わせた施術で、血液やリンパ液の流れを改善して症状を緩和します。必ず医師の指示が必要な介護サービスの通所、訪問リハビリテ―ションでのマッサージとは異なり、あん摩マッサージ指圧師が独断で施術できます。
出張マッサージ
出張マッサージとは、顧客が店舗に出向く従来の業態と異なり、セラピストが顧客の自宅や宿泊先に出向き施術するサービスを指します。提供メニューはもみほぐしやリフレクソロジー、整体と多彩で、出張中のサラリーマンでも宿泊先のホテルで施術を受けることなどができ、そのフレキシブルさが人気です。全国の都市部を中心に出張マッサージを行うサロンは増加しており、近年では顧客とセラピストを繋ぐ「HOGUGU(ホググ)」などのマッチングアプリも配信され、より身近な業態となっています。
マッサージ業界の市場規模と動向
マッサージ業界全体の市場は、2020年には16兆円と推定されます。2007年度は4兆円でしたので実に4倍に膨れ上がり、コンビニの9兆円を大きく上回る市場規模です。マッサージ業は比較的設備導入しやすく、開業もしやすいという特徴があります。
鍼灸マッサージは縮小傾向
鍼灸マッサージの市場規模は、2018年で9,440億円と推計され、2015年以降縮小傾向が続いています。その要因は、主に3つです。
保険治療費(療養費)の減少
鍼灸マッサージの市場規模の縮小には、療養費の減少が関与しています。かつて整骨院・接骨院で療養費を不正請求する問題が相次いだことで、厚生労働省は整骨院への指導や監査の強化を行いました。その結果、2011年をピークに療養費が減少し、患者数も減少したと考えられます。
「商圏」が狭いという特徴
治療院の商圏は、都心部で半径500m、郊外で半径2~3㎞程度と言われています。治療院数と国家資格者数が増加していることで、同じ商圏内に複数の治療院が存在し、その周辺の居住者や通勤・通学者を奪い合う事態が発生しています。
民間資格サロンとの競合
治療院の患者数が減少した背景には、周辺業種との競争の激化も挙げられます。リラクゼーションサロンや整形外科など、周辺業種は多彩です。全ての治療院は、早急にそれらとの差別化を図る必要があります。
リラクゼーション市場は拡大中
ボディケアや整体、リフレクソロジーなどの施術を行うリラクゼーション市場は、2014年以降拡大を続けています。2018年で推計1,196億円となった背景には、2017年に低料金でサービスを提供する企業が多数出店し、チェーン店等の出店拡大が進んだ点が挙げられます。
マッサージ業界で成功するコツ3つ
マッサージ業界で安定した収入を得るには、どのような対策があるのでしょうか?ここでは、3つについて解説します。
意外と知らない「保持資格」に注意
マッサージ店の運営では、保持資格の範囲内で施術を提供することが大切です。一般にはあまり知られていませんが、あん摩マッサージ指圧師の施術以外を「マッサージ」と広告することは厚生労働省により推奨されていません。日本では様々な種類の施術を総じて「マッサージ」と呼ぶ風潮がありますが、顧客だけでなく店主もそのような思考だと、処罰の対象となる可能性もあります。実際に施術したい内容と店舗名、取得している資格に差異が無いか、注意を払う必要があります。
Web集客で安定収入を得る
10代から高齢者まで、ほとんどの人がスマホを活用している現代では、Webマーケティングの成否がビジネスの成否を決めると言っても過言ではありません。店舗のホームページを充実させること以外にも、GoogleやYahoo!からの検索流入やLINE・TwitterといったSNS、YouTubeなどのサービスを上手く活用することが大切です。最もニーズの高い人たちが集まる傾向のあるWeb検索には、長期的なメリットを考慮して対策を練る必要があります。
フランチャイズ加盟でメリットも
フランチャイズに加盟した場合、すでに構築されたブランドイメージを軸に集客できるというメリットがあります。顧客の中には、個人店よりも信頼感が持てる人も多いです。体に触れるマッサージ業界では、特にイメージが大切と言えますので、フランチャイズの方が集客しやすい側面もあります。
マッサージ業界におけるM&A動向
近年のマッサージ業界では、人材確保を目的としたM&Aが多発しています。また、投資ファンドのM&Aにより事業が急成長した事例もあります。マッサージ業界の店舗数はここ十数年増加し続けており、その結果競争が激化する事態となりました。そこで競合店との差別化を図るため、鍼灸師など有資格者の獲得や、多店舗展開を行う企業が増加しています。
まとめ
ストレス社会と言われる現代において、マッサージ業界は必要不可欠な存在です。市場規模も拡大し続け、クイック型・出張型と種類が増えたことでますます顧客の生活に寄り添う業態と言えるでしょう。その一方で、各店舗は他店との「差別化」の必要に迫られています。人材確保を目的としたM&Aも活発に行われており、今後のマッサージ業界の動向に注目が集まっています。