運送業界などは原油高や車両の入れ替えなどの設備投資の必要性から、「会社を手放したい」と考える人が比較的多い業界の1つです。
しかし「自分の運送会社なんて買ってくれる人はいないのでは?」と考える人も多いのではないでしょうか?運送業を売買することは買い手・売り手双方にとって様々なメリットがあるので、上手く買い手や売り手を見つけることができれば、双方の利益になる可能性があります。
運送業界やトラック業界のM&Aのメリットや業界動向について詳しく解説していきます。
運送業界が抱える課題と対策
運送業界が抱える課題として主に次の3点が挙げられます。
- ドライバー不足
- 燃料の高騰
- 過当競争
運送業界が抱える3つの課題について詳しく解説していきます。
ドライバー不足
運送業界はドライバー不足が非常に深刻な課題として指摘されています。特に長期距離を輸送する運送会社のドライバーは非常に過酷な業務です。それゆえに多くの若手ドライバーが退職してしまい、今や、運送業界のドライバーは高齢化が進み、若手のドライバー不足は非常に深刻な問題です。
福利厚生や給与条件をよほど充実させなければ人手不足を解消することはできないでしょう。
中小の運送業者は従業員の待遇改善を図ることが難しいので、生き残りが難しくなっています。
燃料の高騰
近年の燃料の高騰によって、運送業界のコストは増大しています。また、小さな運送業者であればあるほど、燃料コストを価格に転嫁することが難しいので、やはり立場の弱い小規模の運送業者は原油高が拡大すればするほど生き残りが難しくなっていくでしょう。
過当競争
運送業界の市場が拡大していく中、業界内での競争は非常に激しくなっています。運送業界は参入障壁が非常に低いため、小規模の運送業者が今非常に増えています。そのため、中小業者間の値下げ競争が深刻化しているという問題もあります。
結果として、運送業はどんどん利益率が下がっている状態であり、規模の小さな運送業者ほど厳しい経営環境が続くでしょう。
ドライバー確保のためにも過当競争に勝ち抜くためにも、運送業界には一定の規模が求められるでしょう。業界全体としても「小規模の運送業者の生き残りは厳しい」と考えられており、業界内でのM&Aは急務です。
運送業界の課題を解決するためには、ある程度のスケールメリットを確保することが非常に重要になります。
運送業界動向
運送業界の今後の見通しとして業界全体では需要は増加傾向です。
しかし、規模が小さい企業は運転資金の増大や設備投資の負担によって経営が苦しくなる可能性があります。運送業界の今後の見通しと経営について詳しく解説していきます。
ネット通販の拡大によって需要は増加傾向
近年のネット通販の拡大に加え、コロナ禍による巣ごもり、さらには新しい生活様式に普及によって、ネット通販はさらに市場を拡大しています。
ネット通販の市場は2020年度で前年比2.6%増の20兆円となっており、2025年には29兆円まで拡大すると予測されています。ネット通販の需要が拡大すれば物流業界の需要も拡大するため、市場全体としては今後も右肩上がりの傾向が続くでしょう。
トラックとドライバーさえ確保することができれば売上はある程度確保できる状況が続くでしょう。
燃料の高騰によって収益確保が難しくなる
売上の拡大は見込めますが、燃料の高騰によってコストは高くなる可能性があります。原油高は将来的に加速していくと考えられています。
EIA(米国エネルギー省エネルギー情報局)の予測によると、原油価格は今後上昇を続ける見通しとなっており、将来的には運送業界の大きな負担になるでしょう。
原油高を価格に転嫁できるとは限らないため、売上が拡大しても収益を確保できるコスト構造とすることも経営では大事になります。
CO2削減のための取組み
今後は、運送業界もCO2排出量の少ない自動車への転換を迫られるようになるでしょう。
国として2050年までにゼロカーボン社会の実現を掲げており、東京都はガソリン車を2030年までにゼロにする目標を表明しています。
このような流れの中で、運送業界もCO2排出に規制がかかる可能性が高く、設備投資は運送業界の大きな課題です。場合によっては全ての車両の買い替えを迫られる可能性も考慮に入れておくべきでしょう。
規模が小さいと経営は苦しくなる
原油高、設備投資などを考慮すれば、規模の小さな企業は、このような運転資金や莫大な設備投資の資金を確保するだけも非常に困難です。市場規模が拡大する中において、生き残ることができるのは資金力のある大きな企業だけとなる可能性があり、中小の運送業者は将来的には生き残りが厳しい状況が続くでしょう。
進む業界の再編
前述の業界の課題もありM&Aも活発な状況です。やはり業界でも生き残りをかけて統廃合が行われ人材への問題、スケールメリットの獲得等様々な理由でM&Aが行われております。
運送業界、トラック業界、物流業界のM&A(株式譲渡・事業譲渡)とは
M&Aは第三者承継の位置づけとなり、株式譲渡や事業譲渡により会社や事業を統合していくことになります。株式譲渡は会社の株式を現金対価で買主に譲渡します。会社の経営権を譲渡することになります。事業譲渡は会社の資産の一部を現金対価で譲渡します。会社の資産の一部や全部を譲渡することになります。どちらの方法にもメリット、デメリットがあります。ここは売り主の目的や、買い主の目的で決めていくことになります。どちらの方法でも、その特徴を理解して交渉していくことが大事です。できる限り専門家等を活用して売り主、買い主双方が納得のいく売買を目指したいものです。
買い手企業にとって運送業を買収するメリット
買い手企業にとって運送業を買収することには次の3つのメリットがあります。
- 同業者にとっては販路が広がる
- 同業者は大口受注に対応できるようになる
- 別業種では自社の運送部門を持つことができる
買い手企業にとっての運送業を買収するメリットを詳しく解説していきます。
同業者:テリトリーが広がる
運送業者が別の運送会社を購入することによって、営業テリトリーを広げることができます。例えば、隣県の運送業者を購入することによって、隣県にもテリトリーや配送ルートをすぐに構築することができます。ゼロからルートやテリトリーを構築していくことと比較して圧倒的に簡単です。
同業者:大口の受注を期待できる
買収することによって大口の受注を獲得できる可能性が高まります。これまでは配達のロットが大きすぎて断っていたケースでも、買収によってトラックやドライバーの数が多くなることによって受注できる可能性があります。買収によって規模拡大を図れば、より儲かる仕事を受けることができるでしょう。
他業種:自社の運送部門を持てる
他業種の企業が運送業を買収することによって、自社の運送部門を持つことができます。
例えば、業務用食材の卸を行っている会社が運送会社を売却することによって自前の配達部門を持つことができるので、顧客満足度をより高めることができるでしょう。
トラックやドライバーをゼロから充実させていくことは大変ですが、買収すれば非常に簡単に自社の運送部門を構築することができます。
会社を売りたいと思ったときにチェックする3つのポイント
ここからは会社を売りたいと思った時にチェックしたいポイントです。このポイントは買い手も評価ポイントとしているため重要です。
自社の資産を整理
買い手にとっては、事業用資産は非常に魅力的なものとなります。ドライバーは人手不足が深刻な運送業界では重要な資産ですし、他にもトラック自体、取引先、拠点等買い手の目的によっては評価されます。これらの事業用資産を棚卸しし、整理することで買い手への提案力を整理しておきましょう。
きちんとした労務管理
運送業界、特に長距離のドライバーとなる場合、労務管理が不十分であると労務トラブルにつながることもあります。深夜の労働時間に加え、総労働時間や休憩時間を把握し、労使トラブルの発生を防ぐ取り組みをしていることは評価されるポイントとなります。M&Aの交渉時も必ずといっていいほど評価されるポイントとなるのでチェックしておくことをおすすめします。
収益力と経営課題の把握
自社の収益状況はきちんと把握しておくことも重要です。特に、運送収入の契約がコストに見合っているかは収益に影響を与えるため重要な情報となります。ただ、事業買収にあたっては収益等の財務情報だけでなく事業用の資産も重視されるため、収益が良くなくても売れないというわけではありません。しかしながら、自社の経営課題の把握の1つとしてコスト構造を点検しておくことは大事になります。買い手の経営資源と掛け合わせて自社の経営課題が解消されるのであれば収益性が低くても買い手は買収を検討できます。経営課題を前向きに解決に向けて話すためにもしっかりと黒字化、高収益化に向けた経営課題の把握に努めましょう。
売却を検討するときは中小企業診断士へ相談してみる
M&Aを検討する際は、専門家の助言を受けることをおすすめします。M&Aの交渉をスムーズに進めたり、経営者の適切な判断をサポートするのが専門家の役割になります。M&Aでは交渉の段階において様々な契約書が必要であったり、財務、法務、労務、ビジネスの観点で価格を決める等、経営をするスキルとはまた別のスキルが求められます。
M&Aをサポートするプレイヤーは様々います。その中で、中小企業診断士は経営に関する様々な見識を持ち合わせた資格を有する士業となります。特に経営・ビジネスに関して経営者の相談に乗り、サポートする士業となり、経営・ビジネスのツボを抑えています。そのような中小企業診断士がM&Aのアドバイザーをすることで資産や決算書だけでなく経営・ビジネスという観点からもM&Aのサポートができます。
売却をすぐにしなくても準備に向けてのご相談も承っておりますのでご相談お待ちしております。もちろん売却時のアドバイザーのご相談もお待ちしております。