自動車部品製造業のトレンドを踏まえた会社売却(M&A)時のポイントを徹底解説

国内においては、少子高齢化や若者の自動車離れが進み、自動車産業が衰退期に入っている。自動車メーカーから受注を受ける自動車部品製造会社は、現状の規模を維持していく上では、新たな取り組みが求められている。今回は、自動車産業のトレンドを踏まえた上で、いかに自動車部品製造会社における自社の魅力を引き出すかについてご説明いたします。

業界トレンド

自動車部品製造業の概要

国内の自動車部品製造業界の最大の特徴は、自動車メーカーを頂点とし、Tier1・Tier2・Tier3と部品メーカーが連なるピラミッド構造です。また自動車メーカーと部品メーカーが強い親子関係にあり、単一の自動車メーカーへ部品供給を行っている部品メーカーも多くあります。逆に海外は、自動車メーカーと部品メーカーとの親子関係は弱く、車種によって異なる自動車メーカーへ部品供給を行っており、部品メーカーとして独立した関係にあるケースが散見されます。これらの事から、部品メーカーの企業競争力において、国内・海外企業で大きく差が開きつつあることが、課題として挙げられます。

市場規模

前述した通り、部品メーカーの市場規模は、自動車メーカーの動向に大きく左右される。人口減少や高齢化社会、若者のクルマ離れ等、国内の自動車ニーズが減退傾向にあり、部品メーカーとしてもこの煽りを受けています。しかし海外、主には新興国における自動車ニーズは高まっており、国内ニーズの減少分を海外ニーズで補完する形となっています。具体的な例として、エンジン部品においては、2018年度1.8兆円であったが、その後もほぼ横ばいの1.8~1.9兆円にて推移しています。
しかし長期目線で見た場合、空飛ぶクルマや自動運転車等、代替品やシェアサービス等の普及により、トレンド的には、落ち込むことが予想されます。

業界動向

EV市場の台頭により、内燃機関部品とそれ以外とで、業界動向は大きく異なる傾向にあります。内燃機関部品においては、切削や熱処理、研削等様々な技術を使用されるため、EV化が進むにつれ、これらの加工技術を保有する部品メーカーは大きな影響を受けることとなります。またもう一つの大きなトレンドとして、自動運転車の普及が挙げられます。こちらのトレンドは、短期的には既存部品メーカーには影響がないと捉えられますが、自動運転による事故の減少により、部品補修ニーズが減少し、長期的な目線で見ると影響を与える可能性があります。自動車業界全体が、大きな転換期を迎える中で、自動車部品メーカーにおいては、自社の技術を活かした異業種進出を果たすケースが散見されます。しかしながら、この流れは、必ずしも上手くいっているとは限りません。自動車業界はある程度の部品単価を保ちながら、数量(ロッド)が見込まれますが、異業種参入として散見される、医療・航空業界は、単価は高いものの、数量が少ない為、固定費が見合わない等の課題があります。

買い手が魅力に感じるポイント

所有設備

製造業における、代表的なM&Aのパターンとして、川上・川下にあたる垂直統合買収と競合企業にあたる吸収戦略があります。どちらのパターンとも買い手の検討材料となるのが、所有する製造設備です。買い手にとって、M&Aにより経営スピードを高めるという側面があります。売り手が所有する製造設備の生産量・リードタイム等、既に事業として確立している生産ラインをM&Aにより調達することで、経営スピードを加速させることが可能です。従って、自社が所有する生産設備の特性及び生産能力を把握することは買い手への訴求力を高めます。

所属社員のスキルマップ

前述した所有設備と同じく、所属する社員の人員数及び技術力も同様に買い手にとってのポイントとなります。昨今の少子高齢化社会において、生産労働人口が減少傾向にあり、製造人員の確保が難しくなっています。また若手社員への技術伝承という面においても多くの企業で課題となっており、これらの面からも技術を持った従業員の確保が難しくなっています。このような背景から、製造人員数及び技術を持った社員の確保を狙ったM&Aを検討する企業も多くあります。従って、売却を検討している企業は、社員が保有する技術及びスキルを棚卸し、スキルマップ(※通常は人材育成等の教育的要素として活用されている)として、可視化することで、買い手への魅力を伝えることができます。

固有技術の棚卸

自動車部品製造業におけるM&Aにとっても最も重要なポイントなるのが、自社の固有技術です。具体的なM&Aの例では、金属部品加工を行う企業が、同業となる金属部品加工企業を買収したケースを紹介致します。この例では、買収企業が、売却企業が保有する球面加工技術(※切削加工を活用した技術)を手に入れるため、同業ではあるものの売却企業が持つ固有技術を手に入れるため、M&Aを実施いたしました。このように各社が持つ、固有技術は、非常に価値の高く、M&A市場において、重要なポイントとなります。それではいかに自社の固有技術を棚卸するかについて解説いたします。自社の固有技術を棚卸する上で、まず自社の製造工程を整理することです。続いて、各製造工程における技術を洗い出し、洗い出した技術レベルの評価を行います。
この評価段階では、あくまで客観的な観点での評価が求められ、評価項目を設定して、一定の基準にて評価を行う必要があります。こういったステップを経て自社の固有技術の棚卸を行っていきます。しかしこの自社の固有技術の棚卸は、上手くいかないケース(見つからないor見落としてしまう)ことが多いです。取り扱っている素材や製造効率等、様々な角度で自社の技術を見つめることをお勧めいたします。

自動車部品製造業におけるM&A成功のポイント

自動車部品製造業界で最も活用されるM&Aスキーム

自動車部品製造業において、株式売買によるM&Aが最も選択される。またM&Aを行った後も、買収前の仕入先や売上先との関係性を活かすケースも散見されます。前述した固有技術の棚卸でも記載しましたが、自動車部品製造業において、売却企業の技術(強み)は製造工程全体で保有しているケースがあります。従って、仕入先・売上先である取引先を含めて、売却企業の固有技術となることから、既存のビジネスモデルを活かした株式売買によるM&Aが行われることが多くあります。

まとめ

外部環境でも記載した通り、国内の自動車部品製造業においての課題として、『脱・自動車メーカー』が挙げられます。これまで単一の自動車メーカーの部品を製造していれば、ある程度のロッド、一定の単価を得られましたが、今後は、単一の自動車メーカーに頼った経営をすることがリスクとなります。今後自動車部品メーカー同士の競争激化が予測される中、各社自社の競争力強化に向け、いわゆる経営資源と言われる『ヒト』・『モノ』への投資が活発化していくことが想定されます。この事を踏まえ、自社の魅力は何なのか、固有技術はもちろんのこと、所有する設備・所属する社員・従業員の技術力について、改めて見つめなおしてみることをお勧め致します。