日本に警備会社が誕生したのは1960年代。東京オリンピック選手村の建設から始まり、高度成長期のビル建設ラッシュや高速道路の一斉整備などで一気に警備業の需要が高まりました。そこから成長は一気に加速し現代では「施設警備」や「交通誘導」はもちろんのこと、「貴重品の運搬」も警備業の大切な業務となっています。今回はそんな警備業を深掘りし、近年のM&Aに対する需要やトレンドを追っていきましょう。
警備業界の市場環境と現状
1960年代に日本初となる警備会社「日本警備保障(セコム)」が誕生し、早50年。警備業界は様々な進化を遂げてきました。建設現場の警備から始まり、事業所向けの在中警備やカメラセンサー警備へと発展していきます。1980年代にはホームセキュリティーサービスが始まり、富裕層家庭のステータスとなっていきました。今でこそ住宅に当たり前のように付いているホームセキュリティーですが、当時の一般市民たちは「安全と水はタダ」という意識があり「安全」を費用をかけて強化するという概念が浸透していなかったが、時代が流れるにつれて若い夫婦や女性の単身が増えていくと「安全」に対する意識がより高くなり現在の業界の成長に至ります。
警備業界の市場規模
現在、警備業界の市場規模は全体で約3兆5000億円とされています。1980年代から右肩上がりで推移していましたが2008年のリーマンショックで市場が縮小したが、年々売上微増を繰り返し2019年には2006年頃のピークであった3兆5000億円に到達し、オリンピック需要に向けてさらなる飛躍を期待されていたが、コロナウィルス拡大等の影響により各所でスポーツイベントやライブの中止が相次ぎ、特にイベント警備を大きな柱としている中小企業の警備会社にとっては大きなマイナスとなり成長にストップがかかってる状況といえます。
警備業界の市場動向
発足当時は建設現場の警備が主な業務だった警備業ですが、時代の流れとともに様々な警備業務を行うことが増え、需要が一気に高まりました。現在警備会社は全国に約10000社ほどありますが、大手2社「セコム(日本警備保障)」約16%、「アルソック(総合警備保障)」約10%と全体の約25%のシェアを占め、残りの75%を9900社が凌ぎを削っている状況となります。
警備業界のこれから
警備のニーズも年々多様化してきており、各社は様々なサービスを打ち出してきています。ホームセキュリティー分野では警備とスマートフォンと連動し、自宅やご両親の家の異常を検知すると「自動でメールが届くサービス(IOTサービス)」や企業向けサービスでは「24時間オンライン監視システム」「情報漏えいを防ぐネットワーク監視」等、インターネットを活用した様々なサービスが誕生しています。さらに近年ではAIやウェアラブルデバイスを使った「自動顔認識システム」やロボットやドローンを活用した「自動巡回システム」等の研究も進められさらなる成長が期待されています。
<h2>警備会社 M&Aの特徴と目的
警備業界は市場規模が拡大しており、まだまだ成長が期待される業界となります。しかし上述の通り、大手2社「セコム」「アルソック」が国内シェアの25%を占めており、現在でも大手2社により中小企業の吸収などが積極的に行われ、今後も勢力を拡大しています。ここではそんな警備会社のM&Aの特徴とその目的を深掘りしていきましょう。
同業会社の事業拡大
警備会社M&Aの多くは「事業拡大」を目的とした吸収合併が盛んに行われています。大手の「アルソック」は競合の「セコム」に対抗すべく2014年〜2017年の4年間で3社の子会社化に成功しています。このように大手警備会社によるM&Aにより中小企業を子会社化し勢力拡大する買収や株式譲渡が積極的に行われ活発化しています。
異業種からの新規参入
異業種からの警備業界参入の動きも少なくありません。大手スーパーの売上を運搬する目的で作られた子会社も、その警備能力を買われM&Aの末、現在は警備業界で多くの警備業務を行っている企業もあり、注目は外へも向けられています。
一方で警備業界から異業種へ参入する動きも活発に行われています。警備大手の「セコム」は売上のおよそ4割は「保険」「情報通信」「不動産」という警備以外の業務も盛んで、大手のネットワークを活かした異業種への参入も積極的に行われています。
経営者高齢化による事業継承
近年では業界の中小企業で経営者の高齢化が進んでおり、人手不足と高齢化のダブルパンチで廃業を余儀なくされるケースも少なくありません。そんな事態を避けるべくM&Aによって大手警備会社等に事業譲渡し継承者問題を解決する活動も盛んに行われています。
警備会社 M&Aのメリット
M&Aには売り手・買い手ともにメリットがあります。警備会社も同様に各側面で様々なメリットがありますので、一つづつ見ていきましょう。
売り手のメリット
雇用維持に関して
警備会社に限らず、厳しい経営状態の結果「倒産」や「廃業」をすると、自社で働く多くの従業員を路頭に迷わす事に繋がります。M&Aで大手企業に参入することができれば従業員の雇用を守ることができ、従業員だけではなくその家族までを守る事に繋がります。
後継者問題に関して
経営者の高齢化は、日を追うごとに経営判断を鈍らせたり、体調不良の結果いつ経営が行き詰まるか分からない綱渡りの状況が続きます。M&Aは事業譲渡という形で、そんな危険な状況も経験せずにしっかりと事業継承をしてくれるので安心できます。これからのリスクを考えた早めの行動が大切です。
バックボーンの強化
大手企業とのM&Aになると子会社化され、大手グループへの参入となります。このメリットはとても大きく大手企業が持つ経営資源をうまく活用し、売上をさらに伸ばした経営をすることも可能です。ブランド力も上がりお客様、クライアントからの信頼度が上がり受注率も上がってくるでしょう。
お金の問題
警備会社のM&Aにより中小企業の経営者は多額の資金を獲得できるメリットがあります。創業者利益という形での取得になるので、得た豊富な資金により「新しい事業の立ち上げ」や「引退後の生活費」など十分な資金の元、ご自身の選択が広がります。
尚、同様にご自身の負債に関しても、会社売却(株式譲渡)などの場合は債務解消や個人補償解放などのメリットもあります。詳しい取り決めは必要になりますが基本株式譲渡の場合は会社を丸ごと売却するので債務も引き継がれるからです。
買い手のメリット
人材の確保
買い手としての一番のメリットはやはり人材(人手)の確保です。近年雇用の多様化が進んでおり家の中でもお金が稼げる時代になりました。そんな中での人材確保は大変厳しく、これは大手も同様に頭を悩ませています。M&Aでの雇用の確保は、同様に人材の確保にも直結しますので警備スタッフに需要な経験者を大量に確保することも可能となります。経験者であれば育成における時間や費用、求人における時間や費用を必要としないため、買い手にとっては大きなメリットといえるでしょう。
新規事業拡大
警備会社大手は事業の拡大や新規事業の参入の為に、異業種からM&Aを行うことも多く、新たな顧客の獲得などに向けて力を注いでいます。警備業務で培ったネットワークや豊富な資金を生かし、様々な業種へ参入していますので、これからも新規事業拡大の目的によるM&Aは増えていくでしょう。
警備会社 様々なM&A事例
最近でも積極的にM&Aが行なわれている警備業界。様々な事例に合わせどのようなM&Aが行われてきたのかを見てみましょう。
警備会社同士のM&A
警備会社同士のM&Aは頻繁に行われており、最近の事例では2020年に行われた「セコム」と「共栄セキュリティーサービス」のM&A(業務・資本提携)が有名です。共栄セキュリティーサービスは主にビルなどに駐在し警備を行う「施設警備」を主軸としており、セコムは自社のネットワークとその人的警備業務の連携を目的としたM&Aを行いました。ともに培ったノウハウや技術力が高いため、相乗効果を期待されています。
異業種からの新規参入の為のM&A
2017年、ソフトウェア開発やデータセンターサービスなどの事業が主体のアイ・エス・ビーは、警備業務を行うアートの全株式を取得し子会社化しました。買収先のアートは研究施設等に設置・導入されている防犯・防災関連機器の開発や電気施錠システムの開発・販売を行っており、買い手のアイ・エス・ビーは自社の無線通信分野とセキュリティー分野の融合における拡大を目的としています。