印刷業を売却(M&A)するときのポイント。印刷会社を買いたい会社はどこ?

本業界は顧客のニーズに合わせた印刷内容や数量などの印刷物を製造し納入する受注型製造業です。従って、紙媒体による情報提供・表現を支援する産業でしたが、時代のデジタル化の流れを受け、現在ではWEB媒体や映像などを手掛けることで、人々の情報コミュニケーションを支援しています。
今回はこのような業界動向を踏まえて、M&Aにおける売却時のポイントについて解説致します。

業界を取り巻く外部環境

印刷業界概要

印刷業界は、顧客から依頼を受けた内容を製品として、製造する受注型製造ですので、製品への付加価値提供を行わない限り、製品単価の引き上げが難しい業界構造です。
従いまして、利益向上を目指す上で、売上数量の増加とコスト削減がポイントとなります。
費用構造において、本業界の平均的な数値として、生産コスト(設備費・原材料・外注費など)は総費用の76%を占め、これに販売管理費を考慮すると、平均的な利益率は、2%程度となります。いかにコスト削減による利益率改善が図れるかが分かる構造であるが、昨今の本業界の優良企業の動向を見ると、最新設備の投入による大規模設備投資を行い、省人化(製造人員削減)を図っているケースが散見されます。
コスト競争力が、事業成功のカギを握る業界と言えます。

業界の市場動向

印刷業界の工程は、印刷前工程(企画・編集等)⇒印刷工程⇒印刷後工程(製本・加工等)の大きく3つに区分することができます。従来本業界の差別化ポイントは、印刷前工程にありましたが、デジタル化の流れを受けて、顧客との打ち合わせ等のやり取りにおいて大幅に生産性が向上しました。従って印刷前工程での差別化を図ることが難しくなりました。
またデジタル化による紙媒体そのものの需要低下を受けており、昨今は、企業経営において、総合型と低コスト・低価格型の2極化を招いている。総合型は、企画や設計~印刷までのあらゆるサービスを提供しますが、低コスト・低価格型は、インターネットで顧客から受注を受け、印刷時には、様々な案件を合同で印刷することで、製造コスト低減を図っています。

競争環境

本業界は、地元密着型の中小事業者が多く存在し、圧倒的な存在となる企業が少ない分散型な競争環境が特徴です。
従って、各中小事業者が、他社との差別化を図ることで、競争を生き抜いてきています。
前述した通り、デジタル化の流れを受けた紙媒体への需要減に対しまして、デジタル媒体におけるWEBサービスやデータ管理などの付加サービスを展開するようになりました。
ニッチ戦略による各社市場のホワイトスペースへのアプローチを展開しており、大手企業への対抗を図っています。
いかに自社のノウハウを蓄積し、またそのノウハウを市場ニーズへぶつけるかが戦略の肝となっており、従来の大量生産によるスケールメリットを得られない状況にあります。

買い手が魅力に感じるポイント

自社の収益構造再構築

本業界では、固有技術等の自社に圧倒的な強みが無い場合には、コスト競争力の有無が自社のPRポイントとなります。前述した通り、製造コストが総費用の大半を占める業界であるため、特に製造コストの低減を図ることで、収益構造の改善を図ることが可能です。
製造コストの見直しを図る上で、自社のコスト構造の洗い出しを行うことが第1段階となります。続いて、あるべき原価数値(目標数値)を設定し、それに対する差額を把握します。
最後に現状の費用構造と目標数値との差額状況の全体像を押さえた上で、改善の方向性を設定します。方向性に合わせたアクションプランを設定していきますが、原則は、差額の大きい費用項目から優先順位を立て、アクションプラン策定を行います。
買い手に対して、収益性のある企業かどうかは、当然のことながら重要なポイントとなりますので、自社の弱点となる項目を押さえ、対策を打っておく必要があります。

固有技術の棚卸

自社の固有技術を棚卸するとは、これまでの成長要因を把握することに繋がります。
従って、顧客基盤の特性や取引業者との関係性、自社社員スキル等、を形成する元となるのが固有技術ですので、買い手にとってどこに魅力を感じてもらうかを訴求する上で、棚卸することは非常に重要です。本業界に属する企業HPを見ると、『納期対応』や『高い品質』、『レスポンスの速さ』等が多く見受けられますが、これらの固有技術(強み)では、他社との差別化が図れているとは言えません。改めて自社の業務フローを改めて見つめ直し、どの工程において、他社との圧倒的な差別化が図れているか、現在の顧客に選ばれている自社の要素は何かを深堀し、具体的なフレーズで買い手へ訴求する必要があります。

所有設備の可視化

前述した通り、製造コストの低減に向けて、省人化を図る企業が多くあり、またこの流れは買い手候補となる成長企業に多く見受けられます。従いまして、買収先企業において買い手の製造ノウハウ及び生産体制を組み込む上で、売り手企業の生産体制及び生産設備を把握しなくてはなりません。
M&Aによる売却をスムーズに進める上でも、自社の所有設備状況の可視化を図る必要があります。具体的には、まず所有設備を一覧化します。その後、各設備の償却計画を把握します。同時に借入金等を活用している場合には、資金計画も押さえるようにしましょう。
さらに生産設備における製造領域(取り扱い紙質等)を把握し、設備の機能性を可視化することで、買い手が事業領域を広げる計画がある場合には、有効な訴求ポイントとなります。

印刷業界におけるM&Aスキームと最も多く活用されるスキーム

印刷業界として最も多く活用されるスキーム

本業界では、単純株式売買による買収が多く見受けられます。理由として、印刷業界におけるM&A戦略では、買い手の事業領域(エリア・顧客基盤・取り扱い商品等)を広げる上で、活用されるケースが多いため、売り手企業が所有する経営資源をそのまま取得することで、事業展開を図ります。事業領域を広げる意味ですと、当然同業他社以外にもあらゆる業種での買収を検討しています。逆に言うと、異業種から印刷機能として、買収される可能性もあります。前述しましたが、収益構造・固有技術・保有設備が大きなポイントとなりますが、異業種からの買収を想定すると、業界特性をあまり理解していないことが想定されるため、自社が抱えている案件ごとの収益を見られる可能性が高いです。
収益構造については、業界的に、優良企業が少ない傾向にありますので、売り手側も買い手の収益構造をよく見極めた上で、売却の意思決定を行うようにしましょう。

まとめ

印刷業界は、紙媒体への需要低下のあおりを受け、業界全体において、既存の事業領域では、成長が制限される企業が多くあり、各社変革を求められています。成長企業とそうでない企業の差も大きく表れています。M&Aによる売却を検討する場合においても、買い手企業の状況をしっかり見極め、自社の社員を長期的に守れるように買い手企業の選定をする必要があります。
売却を検討する際には、不本意な取引とならないよう、自社の収益構造や固有技術、所有設備、取扱商品等をしっかり把握し、買い手への交渉材料を整理するようにしましょう。