クリーニング業界における業界動向を踏まえた売却(M&A)時のポイントを徹底解説

本業界は溶剤・洗剤を使用して衣類などを洗濯することで顧客へ価値提供を行っている企業を対象としています。具体的な業態として、一般クリーニング取次店やリネンサプライ業等などがあります。コインランドリーは提供価値としては、合致するものの、洗濯を委託する概念から逸れてしまうため、今回の対象には含めていません。
本業界では、大企業の参入による競争環境の激化やテレワーク推進による需要減等、大きく外部環境が変化しています。
今回はこのような業界動向を踏まえて、M&Aにおける売却時のポイントについて解説致します。
3.見出し

業界を取り巻く外部環境

クリーニング業界概要

クリーニング業界の市場規模は、約6,000億円『総務省 経済構造実態調査』となっています。事業施設数は、24,727施設、取次所は、61,316施設となっていますが、市場規模及び施設数は年々減少傾向にあります。主な減少要因として、人口減少による市場規模の減少とファッションのカジュアル化(家庭内洗濯機の利用増)、コロナによるテレワークの増加(フォーマル衣類使用減少)が挙げられます。
本業界の特徴として、個人事業主が半数以上を占める点も挙げられます。また他の業界と同じく、戦後に起業した事業者が多く、経営者年齢の高齢化も進んでいます。60歳以上の経営者が7割以上となっており、さらにその7割以上が後継者不在となっています。新規事業者の参入においては、初期投資費用の負担や地元密着による基盤形成、業界ならではのクレームの多さ等により、参入事業者も少なくなっており、今後事業者の大幅な減少が懸念されています。

業界の市場動向

前述した通り、市場規模は減少傾向にあり、過去5年で約6割減という環境下にあります。最大の顧客となるホテル・旅館業などに対する繊維製品(シーツ等)の需要については、コロナによる緊急事態宣言により、大幅な需要減となっています。
また加えて、家庭用サービスにおいては、コインランドリーの台頭が需要減に拍車をかけています。
様々な要因が重なり、業界全体の需要が減少する中で、国内最大手の白洋舎では、洗濯時間の拘束から解放する『洗濯代行サービス』や衣類に合わせたケアサービスを提供する『オーダーメイド型クリーニング』等の付加価値サービスを展開しています。特に注目を集めているのが、『宅配クリーニング』サービスです。このサービスは、高齢者・共働き世帯をターゲットに、来店することが手間というニーズに対して、集配サービスを展開することで、自社への取り込みを促しています。
今後各社とも自社の事業を機能で定義することで、周辺事業への進出を展開することが予想されます。

競争環境

主要プレイヤーとして、全国展開をしている白洋舎・きょくとうの2社が挙げられます。
最大手の白洋舎は一時700店舗まで店舗展開をしていたが、2021年約600店舗まで減少しています。他の大手企業においても同様の動きがみられ、経営効率向上を目指した店舗展開の最適化、工場製造コスト(固定費削減)、人員の適正化を図っています。
小規模事業者にとっては、経営効率を規模の経済性で実現した大手事業者が低価格かつ高品質で進出してくるため、脅威となります。
今後エリア特性を活かした戦略や経営効率を重視した大手事業者が参入しない市場(ホワイトスペース)へいかに舵を取るかが、小規模事業者の事業戦略の方向性となります。

買い手が魅力に感じるポイント

自社の付加価値の棚卸

現在自社が行っている付加価値事業を棚卸することで、M&A市場における買い手への訴求ポイントとなります。前述した通り、クリーニング業界の市場規模は減少傾向にあり、各社周辺事業への進出や付加価値サービス展開等により、売上高維持を図っています。
こうした動きの中で、売り手が独自で行っている付加価値事業及び特化している事業に対して、関心を持つ可能性があります。業務提携の事例になりますが、前述した業界最大手の白洋舎は、靴修理・合鍵作製などを手掛けるミニット・アジア・パシフィック株式会社と業務提携しました。これはクリーニング事業との親和性が高いと判断し、締結への運びとなりました。またこの業務提携は2016年にテスト店舗を導入した結果、店舗売上高が2倍以上増加したことを受け、さらなる店舗拡大へと至っています。
改めて自社が強みとする付加価値事業及び他社との差別化している事業が何かを棚卸し、自社の訴求ポイントとして提示できるよう準備をしましょう。

所有設備の可視化

前述しました通り、新規参入事業者にとっての参入障壁となるのが初期の設備投資費用です。従いまして、売り手事業者が所有する設備を会社ごと購入することで、設備投資費用を抑える手法を取るM&Aが多いのもこの業界の特性となります。このような背景として、やはり市場環境の悪化により、投資リスクを抑えたいというニーズがあります。
クリーニング業界における代表的な保有設備は、『包装機』・『換気設備』・『溶剤洗浄設備』などが挙げられる。(日本政策金融公庫調査レポート参照)
設備投資理由について多くの企業が、『設備の老朽化』を挙げており、自社の設備状況を把握する上で、法定耐用年数に対してどの程度、減価償却しているか、把握する必要がある。
市場環境が悪化傾向にあるからこそ、設備環境についてもM&A取引において、大きなポイントとなるため、改めて自社の投資計画も踏まえた売却時期の検討をしてください。

所属エリア特性

人口減少などにより市場規模が縮小傾向にある業界では、エリア戦略による売上高維持を図る企業が散見されます。クリーニング業界も例外ではなく、大手事業者を中心としたエリア展開の一環で、売り手が属するエリアに進出するため、M&Aを活用する事例が見受けられます。特にこれまで大手事業者は、需要が見込まれる都心を中心に店舗展開を図っていましたが、地方の需要を取り込むため、小中規模事業者をM&Aによる買収を行うことで、売り手が所有するエリア基盤を取得する事例もあります。
これまでM&Aの対象とならなかった事業者も大手事業者のこういった動きで、土俵に上がるケースがありますので、今一度自社が所属するエリア特性(年齢層・世帯特性等)を把握することで、買い手への訴求ポイントとして準備をしましょう。

クリーニング業界におけるM&Aスキームと最も多く活用されるスキーム

クリーニング業界として最も多く活用されるスキーム

クリーニング業界において、最も活用されるスキームは、株式取得による買収です。
前述した通り、市場環境悪化を受け、大手事業者を中心に、経営効率向上を図る事業者が多くあります。M&Aを活用して、売り手が属するエリア・所有設備を取得した上で、買い手のコスト最適化ノウハウを組み込むことで、収益化を図ることが本業界のM&Aでの流れになります。また売り手企業が所有する付加価値サービスを取り込むことで、買い手の運営する店舗にて展開するケースもあります。
売り手企業としては、前述した展開する付加価値サービスや所有設備、所属エリア特性をしっかりと押さえた上で、買い手へのPRを行うようにしましょう。

まとめ

繰り返しになりますが、クリーニング業界は、市場環境が大きな転換点となります。
大手事業者はこれまでの規模を維持のため、小規模事業者においては、経営者の高齢化対策等、M&Aが過熱することが予想されます。
過熱期において、懸念されるのは、適正な取引価格が見えなくなることです。
納得するM&A取引となるよう、前述した項目を基に、改めて自社を改めて見つめ直しましょう。